沖縄の御願行事「シマクサラシ」
「ヤナカジ・タナカジ」と呼ばれる沖縄の悪風や悪霊を払いの儀式で、地域によって執り行われる日にちが違うようです。
押しなべて旧暦2月上旬
(旧暦2月前半の2月24日～3月8日)に行われるようです。
集落単位で行われるのが特徴で、家では牛や豚の血を付けた小枝を家の四隅に差して悪疫払いを行い、牛や豚など、動物の肉を用いた料理を食べるのが習わしのようです。
【シマクサラシの儀式】
集落では、その地域のむーとぅーやー（宗家・本家）の代表が、それぞれの家の「ビンシー」を持ち寄ります。
さらに集落内の男性が広場に集まって、牛や豚の肉をさばいた後に重箱に詰めて、地域の神役（集落によっては、区長がお供えするコトも）
ビンシーと共に拝所に持参して悪疫払いを行うようです。また、拝所を巡る班とは別に「左縄（ヒジャイナー）」を張るようです。集落の東西南北に「左縄」を張る！
さばいた牛や豚の肉と共に拝所を巡っている頃、一方では「左縄（ヒジャイナー）」と呼ばれる縄を、その集落に繋がる東西南北の道に張る儀式を行います。
【沖縄の御願で用いる「左縄」とは】
「左縄（ヒジャイナー）」とは、藁を「ひだりない」にする編み方で作られた縄です。「ひだりない」とは、通常とは逆の縄のない方で、左手が上になるのが特徴となります。
その昔、赤ちゃんが生まれた産屋の扉や、御嶽のイビ（御嶽内の拝み処）等もヒジャイナーを張る風習があり、魔除けの縄として信じられてきました。
沖縄の悪疫払いの御願となるシマクサラシでは、この魔除けの左縄（ヒジャイナー）に、牛や豚の骨をくくりつけます。集落に通じる道に張ることで、外からやってくる悪疫を払いのけることができると伝えられてきたようです。
沖縄の御願、シマクサラシでの拝み方
集落内の御嶽を回る時の拝みは、集落内の拝所を巡るため、地域によって違うようですが、だいたいの地区が、八か所～十か所を巡る地域が多いようです。
【シマクサラシの拝み方】
拝み方は簡単で、お酒と花米（洗っていない炊く前のお米）をウサギムン（お供え物）として並べ、タヒラと半分（二枚と半分＝12本と6本）を、イビに拝して拝みます。
儀礼を終えた後は、家の儀式と同様、牛や豚の肉で料理したお汁を皆で頂けば、一連の沖縄の御願行事はおしまいのようです。
【シマクサラシにまつわる昔話】
豚や牛の生き血を小枝に差したり、動物の肉を食する儀式は、本土の方々には驚く方も多いかと思います。このような儀式（動物犠牲）は、イスラエル等（ユダヤ教）でも見られる他、日本でも北海道のアイヌ族では熊に対して行われる独特な行事かと思います。
その考え方は、シマクサラシの由来として広まった昔話などを紐解いていくと、理解できるかと思います。
【シマクサラシの由来となる物語】
ある日、貧しい家の生まれで下男として働いていた男が、大晦日に家に帰る途中、縄に縛られた牛を見つけました。
驚くことに牛が話しかけたので、言われるままクバ笠に水を汲んで、その牛を助けました。
その後、その牛の導きに従うコトで多くの財を成した男は、牛が実は自分の先祖の生まれ変わりだと知ります。
そして牛は、「自分を殺してさばき、村の人々にふるまいなさい。」とお願いするのです。
男は断ったものの、牛は動物として生まれ変わったなら、最期まで多くの人に美味しく食べてもらって「御馳走様でした。」と言われるのが本望だと男を説得します。
結局男は、牛の説得を受け、道の辻でさばいた牛の汁を村人にふるまい、「御馳走様でした、山田のカンカー」と言って弔ってもらいました。
旧暦2月に行われる沖縄の御願儀式、「シマクサラシ」の拝み方や行事についてお伝えしました。
動物の骨や生き血を使うだけに驚く方も多いですが、その由来まで理解すると、厳かな儀礼であるコトが分かり、沖縄文化の奥深さと不思議さを感じます。
最後に、沖縄の御願「シマクサラシ」の由来となった昔話は、実は沖縄各地で様々な物語が存在し、牛の戦いで勝つ話や、男の子どもの肩に牛の角の形をした話もあるようです。
この沖縄の悪疫払いの御願「シマクサラシ」は、沖縄本島では中南部に多く、北部にはほとんど見たコトや聞いたコトがなかったです。
また、沖縄の離島地域でも、宮古島では盛んに行われているようですが、他の島ではそれほど多くはないようです。
沖縄では、「ヤナカジ（悪風）・タナカジ（悪霊）」が「ユシン（四隅）・ヤシン（八方）」から入ってくると言われています。
そんな沖縄独特の魔除けの儀式は、興味深い伝統行事ですね。
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